間違った関心の引かせ方


子どもは、お母さんやお父さんの関心を引くために、「ちょっと困ったこと」をしたりします。子どもがわざと何かを壊したり、高いところに昇って飛び降りようなどと危険なことを、周りを意識してやることがあります。また、おとなが人前で言って欲しくない「ウンコ」とか「バカ」を「二ッ」と笑って言うとき、お父さんやお母さんの子どもへの関心の向け方をちょっと立ち止まって考えなければなりません。

家の中で身に付けたことは外に出ても繰り返されます。同じ保育園に通うP子ちゃんが大好きで、お友達になりたいと思っているQ夫君は、いつもP子ちゃんの髪の毛を引っ張ります。「やめて」とP子ちゃんが怒って振り向くのを、喜んでいるのがはた目にもよくわかるのです。ところがP子ちゃんのほうは泣きながら「こんないじめっことは絶対友だちになんかならないわ」とますます思いつめてしまいます。今日もQ夫君は大好きなP子ちゃんが自分のほうを振り向いてくれるように髪の毛だけでなく、スカートをめくったり、おもちゃを取り上げてみようと思って続けているのでした。

こんな光景はそんなに珍しいことではなく、よく見かけることです。いじめっこの中には自分を振り向いてほしい、ただそれだけの気持ちから始まることがあるということを知っておかなければなりません。いつのまにか気が付いたときにはみんながQ夫君を避けはじめ、Q夫君は遊んでもらえなくなったりするのですが、そこまでになっても、どうしてそうなってしまったのかが理解できなくて、こうじておとなになっても人間関係に苦労したりすることがあります。

イソップ物語の中に「北風と太陽」というお話があります。北風と太陽が通りがかった旅人のマントを脱がせる競争をしました。北風は冷たい風でマントを吹き飛ばそうとするのですが、旅人は寒いのでよけいにマントをしっかりと身体に巻き付けようとします。太陽は暖かい光で旅人を包み、旅人はその暖かさにマントを脱いでしまうのです。Q夫君が「いっしょに遊ぼうよ」と気持ちをそのまま伝えれば、十分「あなたへの気持ち」が伝わって好意が通じあいます。困ったことや嫌なことで関心を引こうとするのは、まさしく北風の振舞いと同じこと、気がついたら相手の心に冷たい風を送り込んでしまっているのです。私たちはこうしたやりかたを身につけてしまった子どもたちを「北風症候群」とよぶようになりました。

「北風症候群」が慢性になってしまうと、おとなになっても同じことを繰り返してしまいます。ほんとうは好きなのに「好きだ」と言えない恋人同志や夫婦が、
「おまえなんか嫌いだ」「あなたとなんか結婚するんじゃなかった」
などと言い、
「嫌いが好きということなんだ、そこまで言わせるな、ばかやろう」
と開き直ったりします。やがて結婚して子どもができても、子どもとの関係で同じことを繰り返し、子どもに「北風症候群」の種をしっかり植え込んでしまうことがあります。

そうした手段を使うということは、ますます彼らを追いつめていくかもしれないのに、それでも必死に振り向いてとメッセージを送り続けます。回り道をせずに「私を見て」と言えぱいいし、そうすればきっとあなたを見てくれる人がいるはずだと、そしてもっと今より愛されるはずだと言ってあげたいのです。できることなら赤ちゃんのうちから、北風症候群になる前に伝えてあげたら、苦しまなくてもすんだはずだと思うのです。
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