親の身勝手な育て方(マイナスのメッセージ)


「この子が小さいときから、ほめてきました。どうしてこんなことに・・・・・・」
X夫君のお母さんは戸惑った顔をしてたずねます。隣に座っていたX夫君は、
「お母さんは『がんぱったわね』とか『上手ね』っていつも言うけど、それはお母さんの口癖だよ。だって喜んでないもの」
お母さんはとてもびっくりした顔をしていました。X夫君は、
「怒るときはとても真剣なんだけど、ほめるときはいいかげんなんだ」
お母さんの顔は赤くなったり、青くなったりしていましたが、やがて自分がなすべきことに気が付いたようでした。

最近は育児書やしつけの本には「ほめて育てましょう」と書いてありますから、お母さんやお父さんはほめることの大切さを知識として知っています。ところがほめているつもりなのに、叱ったり、けなしたりすることがそれ以上に多かったり、ずっと深く気持ちが込められていることがあります。また言葉でほめさえすればうまくいくといった思い込みが、叱られたり、けなされた子どもの気持ちへの気づきを鈍らせ、子どもを傷付けてしまっていることがあります。子どもが床に紙をまき散らして遊んでいるとき、
「かたづけなさい!何度言ったらわかるの。全部捨てちゃうからね」
とお母さんは叱りつけ、子どもがしぶしぶかたづけ終わったとき、
「しょうがないわねえ、これからは散らかさないで遊んでよ」
ほめて育てるはずのお母さんは、いったいどうしたのでしょう。

盲導犬や人間のパートナーとして活躍する犬たちの訓練は、どのように行われるのでしょうか。まっすぐ進むことを覚えさせようとするとき、どうしていいのか知らない犬に、まっすぐ歩かないからといって叱ったりはしません。偶然まっすぐ歩くための一歩を踏み出したとき、訓練をする人は「それでいいのだ」と声をかけ、うれしい気持ちを伝えようとするのです。そのとき犬は「なんだ、これでいいのだ」と納得し、次の一歩を踏み出すのです。また「よし、よし」と頭を撫でられるともっとがんばろうという気持ちになっていくのです。そしてだんだん人間をもっと好きになっていくものです。

こうした訓練の方法はとても効率的でお互いの信頼関係を揺るぎないものにしてくれることがわかっています。犬に限らず、
「おもちゃは全部この箱に入れておこうね。そうしたら明日もすぐ遊べるよ」
かたづけ終わったあとに、
「きれいになって気持ちがいいわね。それに今日はとても早くかたづけができたねえ・・・・・・よかった、よかった」
お母さんが心から喜んでいることを子どもに伝えてあげれば、きっとかたづけることがつらいなどとは思わずに、やがて自分で判断して「かたづけ」ができる子どもに育っていくはずです。

ほめるということは、ほめことばを並べ立てることではなく、喜んでいることを伝え、感動を表現することと言い換えることができるといえるでしょう。
「どんな言葉でほめたらいいのでしょう。教えてください」
とたずねられることがありますが、100人のお母さんには100通りの感激の仕方があり、表現があるのですから、これが正しいと言えるものはありません。子どもが描いた絵を持ってきたとき、あるお母さんは、
「うーん、うまいね」
と言うかもしれません。
「ここよ、この色がいいわねえ」
と言うかもしれませんし、なにも言えずにポロリと涙を流すお母さんがいるかもしれません。感動の言葉なんてお母さんの数だけあるからです。自分らしく子どもに感動し続け、本当のほめ上手になってほしいのです。

あなたはいい子ねとほめるとき、私の子どもはすばらしいという気持ちから思わず出た言葉である場合と、ちょっと違っている場合があります。
「いい子になりなさい、いい子というのは親が望む子どもですよ」
という有無をいわせない圧力が背景にあることがあるからです。ほめることとまぎらわしいのは、おだてることなのです。
「いい子だから、ちゃんとかたづけてよ、ちゃんと勉強してよ」
と、心のどこかで見返りを期待して子どもにちょっとした圧力をかけようとするのは、ほめているのではなく、おだてているだけです。親の打算が潜むおだてとはちゃんと区別したいものです。
子どもの心ヘ戻る