明るく、周囲に合わす子ども


ナイフで身を守る子どもたちの姿に、いまの子どもたちの安心と信頼を欠いた人間関係が浮き彫りにされています。いま子どもたちの人間関係は「他人とともにありながら、安心して自分自身でいることができる」人間関係でなくなっています。他人の目に脅えながら、常に自分をつくっていなければならないような息苦しい人間関係になっているようです。

たとえば登校拒否や登校しぶりの子どもたちが、学校に行ったときにどんなようすをしているかといえば、暗い顔でしょぼんとしているわけではありません。多くの場合、明るく元気に友だちとも仲よく振る舞っています。それは明るく元気に振る舞って、友だちに合わせていないと、自分の居場所がなくなるからです。しんどいからといって暗い顔をしていると「うっとうしい」と嫌われ、仲間はずれになりかねないからです。だから学校で明るく振る舞っている子どもほど、気疲れで家に帰ればぐったりだということも少なくありません。

こういう人間関係の中では苦しみという暗いことは避けられます。苦しみがあっても、それを外へ出すことができません。だから苦しみを共有し、いっしょに解決してゆくことができません。苦しみは一人ひとりの心の奥に閉じ込められ、隠されていくのです。表面的には周囲に合わせて明るく、仲よく振る舞いながら、その実一人ひとりが暗さを抱えて孤立しているという状況です。

日ごろは表面的に何の問題もなさそうに見える「普通」の子どもが突然「キレて」衝動的な行動に走ると言われるようなことが生じている背景には、こういう状況の広がりがあることを指摘しなければなりません。
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