彼氏彼女の事情 ACT3

子供の頃の記憶
(有馬)
どうして急に思い出したりしたんだろう
―――ずっと忘れていたのに・・・・・・

(宮沢)
やっぱり変だ
なーんかよそよそしいような・・・・・
なんだろう?
つい先週まではあんなに仲よくしてたのにさ

2週間前 宮沢は有馬の家に遊びに
次の週 有馬は宮沢の家に遊びにいった
それまではよく笑って 一緒にいることも多かったのに
今週に入ってから 急にそっけなくなって あまりは話してくれなくなった
私 なにかやったかなぁ・・・・・・

有馬の腕を つん!と突き・・・
(宮沢)「有馬くん」
(有馬)「ああ 何?」
(宮沢)「・・・・・ ・・・・・ ・・・・・あー これ渡すように頼まれて・・・・・」
(有馬)「――― ありがと」

(宮沢)
今のは”拒絶”だ なんで!?
だって先週まではともだちだった
どうして急にこうなるの!?

臆病になった
どうして急にこうなるのかわからない
そのときはじめて気が付いた
自分が 無知だということを
うわべばっかりとりつくろって 優等生のフリをして
本気で人とつきあってこなかった私は
こんなときどうすればいいのかがわからない
心から話したこともない
けんかもない
今になって 自分には何もないことに気が付くなんて

有馬はどうなんだろう
有馬にだって ごくふつうの高校生らしいところがあるのに
なぜ誰にも見せなかったんだろう 私の前以外で
よく考えると わからない
私みたいに「見栄」じゃないから
なぜそこまでして「完璧」でいるんだろう
どんなメリットがあるの?
それって疲れない?
しあわせ・・・?

(宮沢)「有馬 私になんか言いたいことがあるんでしょ 言いなよ」
(有馬)「・・・・・ 何が」
(宮沢)「トボけないでよ ここんとこずっと無視してるじゃん
 こーいうの嫌なんだよね はっきり言ってくんない?」
(有馬)「・・・別に?」
(宮沢)「なんで逃げるの!? 言わなきゃわかんないよ!」
(有馬)「ほっとけよ うるさいな!」

(有馬)
  『ギャアギャア泣くんじゃないよ!』
僕の記憶はそれだけ
―――たったそれだけ

―――あれは いつのことだったろう
たしか 今の家に引きとられてすぐの頃だ
  『・・・・・さあ おじさんと行こうか』
  『―――どうしたの? どこか痛いの・・・?』
  『ああ おねしょしてしまったの』
”YES”と答えながら どんな目にあわされるだろう
  『ひとりで恐かったんだよねえ』
平手をくうはずの手は 僕の頭をやさしくなでた
新しいお母さんが ねまきをかえてくれた
新しいお父さんが 僕をかかえてねむってくれた
ふしぎな気持ち
なぜ こんなに涙があふれるのか
なぜ こんなに胸がせつないのか・・・

放課後・・・
(有馬)「僕には 触れられたくない『過去』があるんだよ
 宮沢は 知らないうちに それに触れてくるんだ
 宮沢は 僕にとって とてもつごうの悪い人間だった
 それに気付いて だから逃げようとしたんだ
 宮沢のせいじゃないのにね
 気付いたのは勉強会のとき 宮沢の家に行ったとき あらためて自分の家とは違うなって思った
 ああ ふつうの家族はこんなんだなー ・・・・・って
 僕はね 養子なんだよ
 今の父は 僕の実の父の一番上の兄に当たる 僕の叔父なんだ
 僕は今の両親は本当に好きだけれど
 宮沢の家のように なんでも言ったり甘えたりって
 ―――僕にはできなかった
 そういうことに気付かされたよ
 僕の本当の両親はね もう本当にどうしようもない人たちみたいだった
 盗み 恐喝なんてあたりまえ
 はては借金残して蒸発してしまったっていう人なんだ
 ―――僕を残して
 一族の恥だったんだろうね
 今の両親に引きとられてきたとき 親族が集まったことがあった
 子供にはわからないと思ったんだろうな 面と向かって言われたよ
   『あんな親から生まれた子は ろくなものにはならない』
 だから僕は 欠点のない人間にならなくてはいけなかった
 ―――絶対に
 死んでもろくでなしにはならない
 自分のプライドにかけても 育ててくれた両親のためにも
 ―――そうやって創り上げた今の自分に満足していたよ 宮沢に会うまでは
 どうして宮沢だったんだろう
 はじめは 自分に似ているから好きなんだと思った
 でも 宮沢を知れば知るほど それにつられていく自分がいた
 僕は本当に こんな自分は知らなかったんだ
 ―――そのうち ひとつの考えが浮かんできた
 もしかして 今まで『自分』だと信じてきたものは
 努力で創りあげただけの『ニセモノ』だったんじゃなかったのか―――
 僕の中にはもうひとり 『ホンモノ』がいるんじゃないのか・・・?
 ―――そう考えてまずいことになったと思った
 そんなこと気付いちゃいけなかったんだ
 正直いって 宮沢をうらんだよ だからつきはなした」
(宮沢)「――― なんで!?
 だって本当の自分に気付いたんでしょ? だったら素直になればいいじゃない
 どうして隠そうとするの!?」
(有馬)「最低の人間だったらどうする!?
 もし あの親の血を引いていたら ・・・・・僕は 自分の”血”が恐い
 ろくでなしになるわけにはいかない 義父のためにも 義母のためにも」
(宮沢)「有馬くんは 今のご両親が好きなんだねぇ・・・
 でも ありまくん そうやって無理をしている限り きっと本当の家族にはなれない・・・・・
 ほんとうの家族とか友達って 相手の欠点も知ってて それでも”好き”っていうことよ」

(宮沢)
―――ああ 私 この人が好き
好きなものを守りたくて 自分を傷つけてしまうこの人が

有馬の顔を おもいっきりなぐる宮沢
(有馬)「・・・・・なッ なんてことすんだよ―――ッ」
(宮沢)「これが本当のありまくん」
(有馬)「!」
(宮沢)「大丈夫 ろくでなしなんかじゃないよ 私こっちのありまくんの方が好きだもん
 『本当のありま』は外にでたかったのよ
 そいつが私をみつけたのよ
 私の中にかくしてたものを 有馬の中に隠れていたものが気付いたんだわ すごいことよ
 もっと自信をもちなよ ありまはいいやつよ
 私 決めた 優等生のフリはもうやめる 
 これからは自分のためだけに生きるんだ
 自分のことを好きになるために
 有馬くんは?
(有馬)「―――俺 宮沢がいて良かったな」
(宮沢)「私も」

(宮沢)
私は自分の恋を 妙に自覚してしまって 心 揺れる日々なのです
ああ あの告白のとき とっつかまえときゃよかったぜ
当分は友達のままかな―――

話のついでに有馬が言った
(有馬)「そうそう 今の自分で大好きなところがひとつあるよ
 宮沢ってどんどん変な奴になっていったけど
 気持ちは変わらなかったな
 好きだったな ずっと」

PREV.TOPNEXT