彼氏彼女の事情 ACT9

(宮沢)
ほんのすこし前までは 「優等生」やるのが気持ちよかったこともある
そもそも私は 狡猾で計略的なこどもであった
むかしから たくらみ好きのこどもであった
とにかく自分を よく見せたかった
愛とか友情とか信頼とか
そーいうもんは 眼中なしである
いかに自分をすばらしく見せるか そのテクニックを磨くことが 生きる悦びだったのだ
相当たいした性格なのだが だけどちっとも気にしなかった
「優秀」だったからね

自信があった
私は”うまく”やっている 賢い生きかたをしているんだって
ゆくゆくは 高級官僚か 弁護士か エリートコース 人生の花道
表街道を 人々の称賛をあびつつ バク進していく

最高だ 迷いなんかないね
ほかにどんな すばらしい人生があるというのだ

でも でも あとで知る
結局 私は なんにもわかっちゃいなかったのさ

―――私は
そーやって 自分が一番かしこいと思っていたから 迷わなかった

でも 有馬に会った

有馬は ”ほんとの私”に 笑いかけたはじめてのともだちだ
私は はじめて知ったんだ
誰かに 受けいれられる気持ち
誰かと笑いあう わくわくする感じ
自分がいままで 見向きもしなかったものが どんなにたいせつだったかを
今 思う
”優等生”するのって そんなに良かったろうか

誰かがいてくれるという 安心感
ありまといると
まわりの空気が 澄んでいく
人にほめられても 一番をとっても
こんな気持ちにはならない

すっきりと 今の自分が正しいと思える
だから 有馬に会えたのは
とても幸運なこと だって思うんだ

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