彼氏彼女の事情 ACT25

有馬家の朝
(有馬)「父さん母さん おはよう」
(有馬の父母)「おはよう」
(有馬の母)「いつものことだけど 有馬の家の人達に会う日は 気が滅入るわ」
(有馬の父)「相変わらずな人達だからねぇ
 そろいもそろって よくまあ あれだけ意地が悪くなれたものだと思いますよ」
(有馬の母)「あなたは少しも そんなところ ありませんのに」
(有馬の父)「とにかく我々が沈んでいても始まらない
 一番 被害を受ける人が ここにいますからねぇ 私達が しっかりしなくては」
(有馬)「ははは そんな心配 いらないよ
 もう子供じゃないし いちいち気にしたりなんか してないよ」

(有馬)
僕の家は 江戸時代から続く医者の家系で
都内の総合病院の院長である
父を筆頭に 医師・製薬会社の役員を務める親族が ずらりと並ぶ
つまり そういう「家柄」だ
そしてなにより この「家柄」を大事にする有馬の一族において
僕はただひとつの”汚点”だったのだ

  「早いこと あの若々しかったお父様が亡くなられて もう十二年も経つのね」
  「詠子義姉さん お久し振り」
  「志津音さん お久し振り」
(有馬)「詠子伯母様 ご無沙汰しております―――――」
無視される

(有馬)
僕は この一族の間で 疎まれてる
それは 僕の出生に関わりがある
今の両親は 僕の本当の両親ではない
実の父親の 一番上の兄に当たる ―――正しくは伯父夫婦だ
詳しくは知らないが 実の父親はこの家に馴染まなかった
ひどい不良で 何度も問題を起こし
最後は多額の借金と ―――僕を残し 家の金を持ち出して 失踪してしまった
やっかい者の子供
幼い頃から そういう眼で見られてきた

いとこたちまで・・・
  「おいおい ここはふだん着で来るところじゃないぜ!」
  「ばかだな あれは公立高校の制服だよ そんなこと言っちゃ かわいそうだろ」
  「へえ あれが ははは さすが よくそんな安っぽい服 着れんな」
  「あ なんだよ 無視かよっ 気取んじゃねーよ やっかい者のくせによ
   お前はだまって 俺達に服従するんだよ」
  「よせよ そいつは無視するぐらいしかできないんだからさ
   そのくらいさせてあげなきゃ」

(詠子)「あの子・・・・・ 暫く見ない内に 玲司に似てきたわ
 顔を見て ゾッとした
 いやだわ 昔を思い出す
 けがらわしい どうして 玲司みたいな子が この家に生まれたのかしら
 どれだけお父様に 恥をかかせたかしれない
 あなたもよく あんな子を育てる気になったものだわ
 施設にでも預けてしまえば良かったのに
 あの子は大丈夫なんでしょうね
 性質まで 玲司の血を受け継いでいないか よく観察しておくのよ
 甘やかして自分にも 有馬の家のものをもらう権利があるだなんて思わせないこと
 この家に”置いてもらってる”身だということを いつも分からせておくのよ
 フン いまいましい
 早く学校を卒業して この家を出ていってくれればいいのに」
(有馬の父)「姉さん いい加減にしてください!
 子供相手にむごいことを・・・
 総一郎に 一体何の罪があるというんです
 この家の人間は ただ玲司の子だというだけで あんな子供を責めて・・・・・
 あの子は 頭も性格もいい 自分が置かれている立場をよく分かっていますよ
 しなくてもいい努力ばかりして
 私からすれば よっぽど あなたたちの方が恥ずかしい!
 彼は公立でも 県でトップの学校に 首席で入学しましたよ
 あの子を見下すというなら 一体何を根拠に 優越感を抱いているのか
 できがいいとか悪いとかの問題じゃない
 私はあの子がかわいい
 彼は 私と妻の息子です
 私達の子供を 悪く言わないでいただきたい」

(有馬)
こんな日は
憎悪と
そして自分の存在を 黒い染みのように思う
気持ちとに
さいなまれる

あいつらが大嫌いだ!!
ただいい家に生まれたというだけで

そして 消えてしまいたい

それでも 前向きにやってこれたのは
ただ 今の両親が好きだったからだ

特別大切な彼女が 僕を特別大切に想ってくれる
それだけでもう

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