彼氏彼女の事情 ACT28

(十波)
家は金持ちだった
生まれたときから貧弱で ママとパパとじいとばあに
ドロドロに溺愛されて育った
お菓子もオモチャも 好きなだけ与えられたが 友達はいなかった
小学三年生で成人病も患ってた

からかわれることも慣れてしまった
”どーせ自分はだめなんだ”って
受け入れてしまえば
そんなに傷つくこともない

小五の時だ

(十波)「返してよ ボクのナイキのスニーカー」
  「バーカ おめーには似合わねっつーの!」
(椿)「弱いモン いじめてんじゃねぇ――っ」
どんっ パシーン はたく椿
(十波)「・・・ありがとう ボクを助けてくれたんだねっ!!」
(椿)「てめェも 泣かされてんじゃねェ――っ」
ドスドスと 椿に蹴られる十波

(十波)
柔道・空手・合気道・格闘に通じ コブシのえじきにされた男子は数知れず
超凶暴で学校中の男を震え上がらせていた女
それが 佐倉 椿だった
それ以来 なぜかボクは 佐倉に目をつけられてしまった

いじめか からかいか たかりか
そんな奴隷・下僕・召使いのような扱いの日々を送る十波
だから中学になって 転校することになったときは 大ヨロコビだった
最後に ひとつだけたしかめたかった

(十波)「なんで佐倉は ボクにかまうんだ」
(椿)「ああ 小学校のとき 担任に頼まれたんだよ
 めんどうみてやってくれって
 私がバックにいれば そんなにいじめられないし
 私 いちおー いじめはしない主義だしね
 ま 転校したらうまくやれよ じゃー 元気でな」

(十波)
頼まれただけ
なんとも思われていなかった
生まれて始めて
深く プライドが傷つくのが分かった
相手にとって ボクがなんの意味もない存在だったということに
考えたら 当たりまえじゃないか
こんなダメなボクでは

短期間の転校だということは分かっていた

変わってやる

今度会うときは
絶対にボクを 意識しないではいられないように
けしてこのまま 終わったりしない

椿がバスケのダンクの練習をしていると 十波が現れ ダンクを決めて去ってゆく
(椿)「・・・誰 あいつ」
(りか)「あの人だよ 十波健史ってオキナワから来た 十波くんと同じ名前の――」
(椿)「似てね――― あはははははははは」

(十波)
本人だよ 本人
ったく あのバカ女は まったく変わっとらん

オレは 変わった
背が伸び 体力がつき 成人病も治した
もう言いなりになってた頃のオレじゃない

  夏休み明け実力テスト上位成績者
  順位 氏名   クラス 総合点
  1  有馬総一郎  A   394
  1  十波健史   B   394
  1  宮沢雪野   A   394
  〜

(りか)「早ーい もう成績発表でてる――」
(亜弥)「おお――――― ゆきのんと有馬 サスガだね〜〜」
(椿)「・・・さっきのダンク野郎もいる・・・」
十波が現れ
(十波)「ふ―――んっ まあまあかな ・・・おまえ 何位だった?」
(椿)「・・・・・・・・・・ トップ30に入れるほど勉強できねーよ」
(十波)「フ―――ン」
(椿)「亜弥 りか 行くよ!」

(十波)
・・・あそこでいきなり ブン殴らなくなっただけ 成長したかな
え? 有馬!?
有馬ってあの有馬くん??
うそっ
えっえっ 佐倉がこの高校ってのは調べたけど
有馬くんは私立の有名校へ行ったかと思ってたっ
高校一緒!?

有馬くんとは 中一のとき 同じクラスだった
彼はボクの 憧れだ
有馬くんはもう 入学当初から 他の子たちとは違っていた
ただよう育ちの良さ 公平で穏やかな性格 リーダーシップ
彼のまわりだけ 特別な空気が流れてるみたい

体育の時間 十波の名前に・・・
(有馬)「十波? 君がB組に転校してきた十波?
 もしかして前 この辺 住んでたことない?
 同じ名前の人 知ってたんだけど」
(十波)「あっ そ それ オレ」
(有馬)「そっか――! やっぱり!
 なんかずいぶん変わっちゃって 人違いだったらどうしようと思った」

(十波)
あんなボクを 覚えていてくれた
佐倉を見返すためだけに この街に帰ってきたオレを
迎えてくれる人がいた
なんかやたら 嬉しかった

有馬は十波を 雪野と浅葉に紹介する
三人の様子を見た十波は・・・
―――――有馬くんすこし 変わったみたい

ああ ほんとうに
ボクは三年ぶりに ここへ帰ってきたんだ

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