彼氏彼女の事情 ACT32

文化祭の役員の集まりに・・・
(宮沢)「おっ あっさぴんじゃ――ん」
(浅葉)「おおっ 宮沢も放送・受付かぁ」
(宮沢)「おう よろしくねー」
(十波)「あれ 二人もここなんだ
 よかったー オレ 転校したばっかで 知り合いいねーし 学校分かんねーし」
(宮沢)「じゃ 私といなよ ついでに色々教えてあげる」
親しげな二人の様子を 不安げに見る浅葉

校庭に出て・・・
(十波)「・・・・・この学校で 一番大きな木だな」
(十波)「痛て」
(椿)「あ――― 悪い悪い」
木の上にいる椿 リンゴを落とす 十波も登る
(十波)「・・・・・何やってんだ こんなとこで」
(椿)「間食 こーいうところで食べんのが カクベツでさー」
リンゴをもらう十波
(十波)「オイ」
(椿)「んあ?」
(十波)「おとついオレが言ったこと 忘れたわけじゃないだろ
 なに余裕こいてんだよ」
(椿)「ああ 嫌われたもんは仕方ないなぁ ま 好きに嫌えば」
(十波)「なんだよ それ・・・」
(椿)「それに私 けっこうおまえ 好きだし」
(十波)「あア!? おれはおまえを 嫌いっていってんだよ」
(椿)「変なの 嫌われたら 嫌い返さなきゃならないのか?
 考えたら 私はおまえといるの 面白いって思ったんだもん それでいいだろ」

(十波)
届かない
奔放で こいつの心はいつも どこか遠いところにある
オレのどんな声も 感情も
届かない
けして 佐倉に 届かない

目をつむっている椿に キスをする十波
(椿)「なぜ?」
(十波)「知らない」
(椿)「私 キスなんか はじめてした」
(十波)「そういえば オレもだ」

(十波)
・・・・・?
なんであんなこと したんだろう

有馬のいる委員会の教室から 宮沢と十波が一緒にいるところが見えた
その表情は・・・・・

(宮沢)「ふ―― ありがとう――
 今日はこれから 文化祭の参加サークルの企画書のチェックと整理よォ〜〜」
(十波)「た・・・大変そうだな 何か手伝おーか」
(宮沢)「いいよ ありがとー」
(十波)「何だ せっかくの厚意を」
(宮沢)「だって あんまり他の男の子と仲よくしてたら 有馬さびしがるも――ん♪」
(十波)「何だ そりゃ 思い上がんな!!」
(宮沢)「ホントだも――ん♪」
(十波)「ちぇ ぜんぜんわかんねぇよ 有馬くんは なぜこんな女と・・・・・
 もっと清純で 可憐な愛らしい・・・
 ぴったりな女の子といくらでもつきあえるだろうに・・・
 どうせおまえが 何も知らない無垢なありまくんを
 ずるいワナにかけて 篭絡したんだろう きっとそーだ!」
(宮沢)「ハズレー 有馬のほーからアタックしてきたんですぅ―――」
(十波)「うそだ―――――!!!」
(宮沢)「それより 椿への復讐はどうなってるの?」
(十波)「え・・・ ・・・・・・・・・・ してるよ あきらめてねえよ」
(宮沢)「・・・・・・・・・・ ふ――ん
 ・・・でもなー 2年間 かたときも忘れずに相手にこだわる気持ちってさー」
(十波)「? 何だよ」
(宮沢)「べっつにー」
浅葉がやってくる
(宮沢)「あさぴん あ これ 沢田さんにたのまれた」
(浅葉)「サンキュー」
(十波)「あーあ オレもクラス 手伝い行くか」

十波と浅葉 宮沢と別れ 廊下で・・・
(浅葉)「・・・・・・・・・・ おまえさ 宮沢に近すぎだよ 有馬を追い詰める
 軽い気持ちで余計なことしないほうがいいよ
 有馬は本当は 男でも女でも 自分以外の誰かが宮沢に近づくの 嫌いだから」
(十波)「・・・・・ え―― 有馬くんがぁ?」
(浅葉)「お前の知ってる『有馬くん』は ただの模造品だろ
 本当の有馬は 気性が烈しい
 独占欲 強いよ
 宮沢はけっして 自分を裏切ることはしないって分かってる
 でもリクツじゃないんだ
 有馬が かけねなしに優しいのは 宮沢にだけだよ
 有馬が おれが宮沢といることを許すのは
 おれが決して 宮沢だけは手を出さないということを知ってるからだ」
(十波)「はぁ〜? 考えすぎじゃねえの
 だいたいそんな ごたいそうな女かよォ
 ちょっと頭よくて かわいいってくらいの どってことない ふつうの女じゃん」
(浅葉)「・・・・・・・・・・ 分からないのか ガキだな」

(有馬)
僕と君 君には僕で 僕には君でならない理由
トイレの鏡で自分を見る
鏡の向こうの もう一人の有馬が語りかけてくる
「恐いんだろ?
 アタマじゃ分かっても 感情がどうにもならない そうだろ?
 なぜだか 教えてやろうか
 おまえは気付いてしまったんだ
 宮沢を抱いても 幸せにはなれない自分に
 触れ合ってしまったからこそ 二人の距離がよく見えた
 二人は まるで別々の個人だと
 触れ合う歓びは一瞬
 それはゴールなんかじゃない
 以前はそんなこと 考えもしなかったのに
 痛切に
 知ったんだろ
 自分は宮沢無しでは もうやっていかれないということと
 宮沢はもう おまえ無しでも やってゆけるということに」
鏡に水をかける
「可哀相に 幸せになれると思ったのに」

(十波)「お 仕事終わったのか」
(宮沢)「うん やっと開放されたよ――っ ねっ ありま見なかった?」
(十波)「いや 見てねえ」
(宮沢)「そっかー お芝居とかで なかなか会えない分 一緒に帰るとかしたいのにな」
『宮沢に近付くなよ』という浅葉の言葉
(十波)「なんだって―――んだよなぁ!!
 そんな気をつかうよーな女かよ―――――!!!」
宮沢のアタマを ベシベシ叩く
(宮沢)「!?」

薄暗みの廊下 向こうから有馬がやってくるのに気付く十波
・・・・・すれ違いざまのその表情は ・・・憎むように険しい

(有馬)
もしかして 今まで「自分」だと信じてたものは
努力で創り上げただけの
もしかして
「ニセモノ」だったんじゃないのか
僕のなかにはもうひとり
「ホンモノ」がいるかもしれないけれど

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