彼氏彼女の事情 ACT34

(十波)
オレが好きなのは
何にも束縛されない自由な女
うまくいく確率の見えない恋

そう すべてつじつまが合う
俺は昔から 佐倉のことが好きだったんだ

小学生のころの思い出
(椿)「おい 教室からカバン持ってきてくれ 3分で」
(十波)「え―――」
(椿)「んだよ」
(十波)「わ わかったよ」

(十波)
ちっ さくらめ 今にみてろよ
ボクが大人になったらな〜〜〜
パパの会社入って 重役とかになって
おまえなんか おまえなんか・・・・・・・・・・

  「ったく 佐倉さえいなきゃなー」
  「いばりやがって 力でまけなかったら 絶対言うこと きいたりしないのに」
  「ちぇ なんだよ あんなブス」
階段の上で 悪口を言っているのを聞き クラスメートにむかって物を落とす
  「うわ ニクフミ てめ――!」

(椿)「おそいぞ 何してんだよー
 何だその顔 またいじめられたのか 言ったろ そーいうときは呼べって」
(十波)「何でもないよ」

(十波)
・・・・・佐倉は ブスじゃないよ

我に返り 身震いをする十波
(十波)
何 思い出してんだ オレ

新しい学校へ行くと 必ず一番大きな樹をさがすのは

ふたたび 小学生のころの思い出
樹の上にいる佐倉
(十波)「いた お――い さくらー」
(椿)「んあ?」
(十波)「4時間目サボってたの 先生怒ってたよ 呼んでこいって」
(椿)「や で――す 今日は天気がすごい気持ちいいから 午後もサボる!」
(十波)「ちゃんと授業でないと将来 出世とかできないんだぞっ」
(椿)「んなの 興味ないもん タケフミも登ってきなよ」
(十波)「・・・いいっ」
(椿)「また〜〜 登れないからスネてんだ 手伝ってやるって」
(十波)「いいっ」
(椿)「もったいないの ここはこんなに 気分がいいのに」

ふたたび我に返り・・・
(十波)
そうだったのか―――――!
いちど合点がいくと いろんな新事実が浮かび上がってきて コワイ!!

佐倉は人に支配されない
金や時間や規律にも
佐倉を動かすのは 天気や気分やきれいなもの
惚れるには厄介な女

チクショー
なんであんなマニアックな女に惚れんだよ――
怖い!!!
一度 あーゆー濃ゆい個性の女にはまったら
もう二度と ふつーの女の子は愛せなくなってしまうんだ―――――!!

でも あきらめたりはしないけど

家は金持ちだった
生まれたときから貧弱で ママとパパとじいとばあに
ドロドロに溺愛されて育った
お菓子もオモチャも 好きなだけ与えられたが 友達はいなかった
小学三年生で成人病も患ってた

(十波)「ただいま」
(十波のママ)「まあまあ 健史ちゃん大変 早く着替えて カゼをひいちゃう
 今 おばあちゃまと話してたの 車を出したほうがいいんじゃないかって」
雨が降っているが 傘はさして帰ってきた

(十波のママ)「健史ちゃん 学校はどう?
 途中入学でしょ 健史ちゃん いじめられたりしないか とても心配」
(十波のパパ)「最近は いやな事件が多いからね」
(十波のじい)「お友達をうちに招待するというのはどうだろう」
(十波のばあ)「それはいいわ 健史によくしてもらえるよう ごちそうしましょう」
(十波)「・・・・・・・・・・ 子供じゃないんだから
 高校にもなって 親にそんなことしてもらうやつ いない ごちそうさま」
席を立つが ママが追いかけて・・・
(十波のママ)「健史ちゃん ねぇ 今度の休み みんなで旅行しようって言ってるの
 健史ちゃんも来るよね」
(十波)「・・・・・ 休日は部活あるって言っただろ 行かないよ
 友達つくれっていうなら部活 休ませるようなことしないでよ」
(十波のママ)「だって! みんな 健史ちゃんがよろこぶと思って考えたのよ
 どうしてそんなこと言うの!?
 関東戻ったら 健史ちゃんも昔に戻ってくれるって思ったのに
 どうしてそんな冷たい子になっちゃったのっ」

(十波)
親は 嫌いじゃない きらいじゃないけど

むかしは 裕福に生まれ 何でも与えてもらえる自分を 世界一幸せな子だと信じてた
何でももっていると
でもあの日

  『なんで 佐倉はボクにかまうんだ』
  『担任に頼まれたんだよ めんどうみてやってくれって』

はじめて 世界を知った
家を一歩出れば 誰にも相手にしてもらえない自分
甘やかされて 傲慢で 人から嫌われる自分
高級菓子とコース料理をさんざん与えられ たの丸出しのだらしない容姿
こんなやつ 誰もかまってくれやしねえよ

きっかけは 佐倉への「復讐」だったけど

  『健史ちゃん ほら お菓子よ』 『成人病に悪いからいらない』
  『パパとドライブにいこう』 『部活あるからいかない』
  『おばあちゃんが 服をかってあげましょう』 『・・・ごめん どうしても勉強したいんだ』
  『おこづかい 好きなもの買いなさい』 『・・・・・毎月もらってる分だけでいいのに』

どうしてモノやお金で きげんを取るんだろう
何もしてくれなくてもボクは みんなを好きなのに
それになんで?
ボク病気なのに 食べるもの 気をつけなきゃならないのに
どうして悪いもの食べさせようとするの?

  『健史 なにもがつがつ勉強することはないんだよ
   パパのコネがあるんだから 一生ラクにできるんだから』

ちゃんとした人間になろうとするほど はっきっり分かった
ああ ボクの親は「だめ」なんだ・・・・・

こんなに愛されてるのに
本当に愛してもらえることはなかった
一度も

「孤独」を知った

きっかけをつくったのは 佐倉

ふと寂しさがつき上げた
理由はしらない
ただもう一度 佐倉に会う
それだけがボクを支えていた

オレが「孤独」に気付くきっかけをつくったおまえが
今度は「オレ」に気付くべきだ
おまえがオレに気付いたなら
オレは孤独からすくわれる気がするから

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