彼氏彼女の事情 ACT44
(貴志)
裕福な家に生まれた 学校は有名私立校 エスカレーター式
友達は多く女の子にモテた
でも あの頃の写真はどれも本当は笑ってない
理由は自分で知っていた
(真秀)「おはよう」
(貴志)「な 何だ 朝っぱらから」
(真秀)「え――っ お迎え
朝なら一緒に行けるし かわいい女の子がお迎えしてくれるなんて嬉しいでしょ
そのうち ほだされるんじゃないかと思って」
(貴志)「されない されない」
(真秀)「そういうのはないって言っただろ」
(貴志)
僕は27歳の歯科医
彼女は中三
偶然知り合い (何しろたいへんきれいな子なので)
めいっ子のように親しみを感じていたところ
告白された
・・・失態だ
(真秀)「3年経てば18だもん すぐ大人よ」
(貴志)「じゃ 3年経ってからきてよ」
(真秀)「来年は高校生よ どんどん大人っぽくなるよ そういうの見たくない!?」
(貴志)「全然」
(真秀)「青年と少女なんて フランス映画みたいですてきよ
貴志さん こじゃれてるから似合うのにな」
(貴志)「だからァ 興味ないっての!!!
俺のどこがいいってんだよ カネか! カネづるか!!!
しゃぶろうったってな〜 ビタ一文出さんぞ」
(真秀)「ひっっど〜
貴志さんといると落ちつくし まわりの色がきれいに見えるんだもん
だから!
貴志さんは? 私といても何も変わらない?」
(貴志)「なんにも」
(貴志)
まあ 子どもの言うことだから ムリと分かれば諦めるでしょう
(貴志)「・・・また来たか」
(真秀)「しっ 失礼ね」
(貴志)「受験生だろ 勉強せんでい――のか」
(真秀)「ちゃんと上位3位以内維持してるし」
(貴志)「ええ ヤンキーヘッドなのに!?
へ――っ 勉強できんだ 将来何なんの?」
(真秀)「医者」
(貴志)「ほ―― 何科の?」
(真秀)「脳外 貴志さんは学校どこ?」
(貴志)「俺は 中学から***義塾」
(真秀)「幼稚園と小学校は***か***?」
(貴志)「何で分かんの」
(真秀)「何か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ そういう感じ」
(貴志)「何!? 何そのうす笑いは!?」
(真秀)「モテた?」
(貴志)「さぁね―――」
(真秀)「その頃なら 私とつき合った?」
(貴志)「どうかな―――― さあてね――」
(真秀)「・・・・・・」
友達と歩いている真秀を見かける
(貴志)
前も思ったけど あの子
プライベートなことになると ふっと気持ち閉じちゃうんだよな 諦めてるみたいな
微妙な年齢 ほんの一歩 足を踏み違えただけで
完全に「あっち側」へ行ってしまいそうな
そうか ずっと忘れていたけれど あの眼を僕は知っているんだ
だからって僕に何ができる 心を扱う医者でもないのに
所詮 27のまだ 人間として不完全な僕が
15歳のもろい心を受け止められっこないんだ
はっきり駄目と言わなきゃなぁ
あああ・・・ ユウツになってきたきたきた
こんなときは大抵 頭がひどく痛みだすんだ
(真秀)「貴志さ――ん」
(貴志)「おはよう」
(真秀)「どうしたの」
(貴志)「頭が痛い 偏頭痛持ちなんだ」
(真秀)「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ―――――――― 私のせい?」
(貴志)「―――もう よそう こういうのは
真秀ちゃんはきっと 俺に幻想持っちゃっただけだよ
俺や俺の生活が 家や学校と違うものだったから
それを好きだと思い違っただけ」
(真秀)「ちが」
(貴志)「今から背伸びして 大人とつきい合うことない
子供でいられるのは 子供のうちだけなんだから
それに この取り引きは 俺にメリットなさすぎじゃない?
エッチする気も起きない子供と 恋愛するほど奇特じゃないもん
君は俺に逃げ込んでるだけだろ?
毎日つまんないから 俺ならこの つまんない場所から連れ出してくれそうだから
私を変えてくれそうだから
――――俺は そういうのは嫌いなんだ
自分のために生きるのが せいいっぱいのただの男だよ
君のための王子様じゃない
・・・そういうの重いんだ だから止めよう」
(貴志)
―――泣かれるのかな
(真秀)「・・・・・・・・・わ」
(貴志)「え?」
(真秀)「私 そんなにみじめったらしい女じゃないわ!
確かにそういうところがあるのは否定しないわ
でも 私は 助けてなんて一言もいってない
一人で考えて 一人で立ち直っていこうと思ってた
私の心は私だけのものだからよ」
(貴志)「真秀ちゃん」
(貴志)
・・・・・・ なんてことを
それ以来 彼女はやってこない(当然だ)
秋になった
気付くべきは 彼女の誇り高さだった
あのとき 彼女をほんとうに綺麗だと思い
初めて 恋愛に近い感情を抱いた自分を知っていた
(貴志)「引かないなー 頭痛」
(貴志)
一番ひどかったのは高校の時
(クラスメート)「また別れたんだって? 優介はもてんのに続かんの――」
(貴志)「だってさ いつも口論になっちゃうんだよ
つき合うと全て独占しようとする 何もかも知る権利があるって顔されるの嫌なんだ
全部独占しないでって言うと怒って別れるっていう
どうして100%か0%しかないんだ?
たとえつき合ってたって 他人の心は自由に支配できるものなんかじゃないのに」
(クラスメート)「――まあ 俺にはよく分かんないけど
お前って 人当たりはすごくいいのに
冷たいこと言うのな」
(貴志)
幼かった 誠実に真実を見極めようとするほど言葉は誤解され
まだ弱い魂は傷ついた
誰も 自分ほどには真実は大切なものでは無いのだという事実もまた
僕を深く傷つけた
僕は冷たかったことなんか一度もない
言葉が誰にも届かない あの言いようのない絶望感
大学に入って 社会人になって
いつまでも青臭いこと言ってても仕方ないから
当たりさわりない人づきあいするようになった
真実がどうだのとアホなこと言って人に誤解されて
自分を使いべらすこともない
楽だな でも空しい
他人に何も期待しなくなった今のほうがあのときより ずっと冷たい
ひとりで暮らすようになった
大人になるっていい 自分ひとり食わすことができれば 好きにしていいんだから
(貴志)「・・・最近ミョーに部屋が広く感じるんだよなー 理由 分かってるけど」
(貴志)
何のことは無い 一緒にいると居心地がいいのは俺も同じだったんだ
利発なところが良い
自分にだけ特別 心を開いてくれるのは嬉しかった
もし可能なら 綺麗な花のように 大事に守って育っていくのも見たかった
(真秀)「た か し さん おはよ――」
(貴志)「真秀ちゃん!?」
(真秀)「久しぶり 高校に合格したのよ 春からまたよろしくね」
(貴志)「あ あ あきらめたわけじゃなかったのか!?」
(真秀)「当たり前じゃない そのくらいで引きさがるもんですか
見て 高校の制服
貴志さん あのままじゃ子供扱いしかしてくれないんだもん
ちゃんと高校合格したら 成長したって思われるかなって
分かってたもん 貴志さんが頭痛くしたり あんなこと言ったりしたのは
私のこと 心配してるからだって 優しいからだって
だからやっぱり私・・・・・・」
(貴志)「・・・・・・・・・ また俺は 偏頭痛に悩まされるのか」
(真秀)「それは大丈夫だと思うの いずれ解消するわ」
(貴志)「?」
(真秀)「だって ほら 私 脳のお医者さんになるから」
(貴志)
それから。
真秀は高校に入ってしばらくは 面白くないことがあったらしく
すごいすさみかたをしていたが
今は仲良くなった「大好きな宮沢さん」(と言うと怒る) をはじめ友達も増え
学校が楽しそうだ
日影に咲いていた花を ひなたに出したみたいに
日毎に 豊かに開いていく
今はゆっくり 高校生活を楽しんで
いつか