彼氏彼女の事情 ACT51

(一馬)
歌うことがどんどん好きになってく
どうしてみんな 歌わないでいられるんだろう
楽しいとか好きとか 苛立ちとかがあふれて
ふつうの会話じゃ足りないって思うことないのかな
ああ 歌いたい 歌いたいよ―――っ
このごろ僕は どうしちゃったんだろ
歌えば歌うほど 歌い足りなくなっていく
飢えていく 僕は
心と体が 急速に変化しだしたのを感じた

(雪野)「え――っ 真秀さん『陰陽』のライブ行くの」
(真秀)「そう・・・ ファンだから!!」
(雪野)「へぇ―― インディーズのライブって私 行ったことないや」
(椿)「つばさの義弟がやってるバンドでしょう?」
(有馬)「それ・・・ 僕も行きたいな」
(雪野)「有馬!? じゃあ私も!! 私も行きたい!
 実はあたしも いっぺん行ってみたかったんだよね〜」
(十波)「オレも」
(亜弥)「私も そーいう世界キョーミある」
(りか)「わ 私も」
(雪野)「じゃあ いっそみんなで行くか!?
 つばさちゃんは『陰陽』のライブ 行ったりするの?」
(つばさ)「ううん・・・ 曲もあんまり知らない」
(雪野)「もったいない じゃ この機会につばさちゃんもどう!?」
(つばさ)「・・・・・・・・・うん」

(一馬)「ありま君がライブに!?」
(つばさ)「他のみんなも来るって」
(一馬)「え――っ え――っ え――っ
 どうしよう!! うわ――っ きんちょうしちゃうよっっ
 つばさも来るんだ」
(つばさ)「うん」
(一馬)「ライブ来てくれんの はじめてだね
 じゃ つばさの来る日は特別がんばるね」
(つばさ)「………」

(つばさ)
私には分かってるわ
一馬ちゃんの心は 他の人達に比べて ずっと体との結びつきが弱くって
自由にどこかへ行ってしまえる
そんなときは そばにいるのに 遠いの
この頃 以前に増して それが多くなった
だから私は 心の中では
私から一馬ちゃんを奪ってしまう「音楽」を
しだいに 憎むようになった

夏休みになった
一馬ちゃんは しょっ中「ライブ」で その頃から 次第に

ライブ中
(一馬)
ああ 来る
この音の洪水の中 たぎる人の渦の中で
真っ白な世界に吸い込まれる
まるで生まれる前にいた世界のような 至上の快楽
こんな快楽を知ってしまっては もうふつうに暮らすことなんてできない

ひとり ライブから抜け出す
(つばさ)
私 知ってるわ
遠くから ずっと一馬ちゃんを呼んでいたものを

「音楽」よ
一馬ちゃんが「音楽」を選んだんじゃない
「音楽」が一馬ちゃんを選んだ
そんなものに どう私が かなうというの
「音楽」は いつか一馬ちゃんを連れ去ってしまう
一馬ちゃんは 私を選ばない

だから私は
「音楽」なんて大嫌い

(一馬)「ただいまーっ つばさは?」
(母-裕美)「お帰り 疲れたって寝ちゃったけど」

(一馬)
つばさ どうしちゃったんだろ なんか元気ないみたいだし

街で つばさの友達を見かける一馬
(椿)「けど 昨日のライブすごかったねェ
 ホント つばさもすごい人ときょうだいになったもんだ」
(雪野)「一馬くんのこと話すとき いつも すごい たのしそうだもんね」
(椿)「一時は どうなることかと思ったけど
 ほら 去年 大変だったじゃん 大好きなお父さんは再婚しちゃうし
 ずっと好きで 高校まで追いかけてった有馬くんはゆきのんを選んじゃったじゃん
 やっとつばさ 幸せになれてよかったって思うよ」

(一馬)「え」

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