彼氏彼女の事情 ACT55
(一馬)
ぼくの中には 種類の違う 2つの愛がある
「音楽」への愛と つばさへの愛
どちらか1つを選んでも 心は死ぬだろう
(潮)「こんなに ライブが待ち遠しくてもどかしかったの はじめてだよ
早くみんなに 今のお前を見せたいよ」
(一馬)
ぼくには分かったことがある
「愛」も「音楽」も
どちらかを選ばなきゃならないような きゅうくつなものじゃなかった
「音楽」は 愛を水のように吸って開く花
「愛」は 音楽になり 躰を とき放たれる
だから もうぼくは迷わない
君への愛 友情 慈しみ 憧憬 狂気 いたわる心 不安
君が生まれてきたことへの感謝
幸せを希う気持ち
欲望
歌にしよう
他になにもできないから
この日のライブは その後何年も語りつがれる
この日 会場にはレコード会社の人間 ラジオ局のプロデューサー DJが来ていて
その場で交渉
デモテープが 翌日から街中に流れはじめた
(潮)「『陰陽』も全国規模になり マーケットもケタ違いに拡大しております
今までどおり プロにはならず インディーズの自由なスタンスを守るとゆー方針でいくとしても
CDの流通等 一部大手レコード会社と契約しないときついかと思うんですが」
(敦矢)「いんじゃねーの 潮のやあることに まちがいはねーよ」
(一馬)「オレ 高校辞めるよ 自分のやること 決まったから」
10月 一馬 高校を自主退学
11月 『陰陽』 マキシシングル発売
インディーズバンドとしては異例の初登場9位
メディアに注目されるようになり さらに順位をじりじりと上げていく
12月 『陰陽』の曲を使ったCMが放送開始
ラジオ テレビ CDショップ 雑誌 しだいに『陰陽』の名を見ない日はなくなっていた
(つばさ)
聞くもんか
怯え 拒否し 耳をふさいで泣く
怖いよう
一馬ちゃんが 遠くへ行っちゃうよ
(母・裕美)「つばさちゃん この頃あまり食べないのよ
学校も休みがちだし・・・・・・ 目を離さないようにしてるけど・・・・・・」
(父・俊春)「ぼく達は 何かしてあげられないの?」
(母・裕美)「心の問題だから・・・
治りたいと願う人には医者はいくらでも力を貸せるけど
今は 何を言っても追いつめてしまうだけかもしれない
どんどん大人になっていく一馬に
大人になろうとしないつばさちゃんは 対応できないのよ」
(雪野)「つーばさちゃん 校内放送でもすごいかかってるね」
(つばさ)「何が?」
(雪野)「何がって・・・『陰陽』の曲」
(つばさ)「・・・・・・ 今 何か 曲かかってる?」
(雪野)「は? めちゃめちゃかかってるじゃない」
(つばさ)「なにも聞こえないよ 何の音もしないけど・・・・・・」