彼氏彼女の事情 ACT71

(宮沢)
彼の方から好きだと言った いつも傍にいてくれた
理解してくれた 守ってくれた
すべてを惜しみなく与えてくれた
わたしはただ 受け入れるだけで良かった

学校で 有馬の姿を見つける
(宮沢)「有馬」
(有馬)「お早う 今日は寒いね
 ごめんね昨日 せっかく来てくれたのに いろいろあって 気分悪くて」
(宮沢)「いいよもう 『演技』しないで 気付いてしまったから」
(有馬)「なんの話?」
(宮沢)「私 謝るから 自分のことにかまけて
 有馬のこと 見捨てたと思われてもしかたないことをした」
(有馬)「何 ソレ? 僕 見捨てられちゃったの? なんでそんなこと思ったのさ」
(宮沢)「―――・・・ 思い出したから・・・
 一年の時 文化祭のあと
 『そんな忙しくして 成績下がっても知らないから』
 って有馬が言った

 私は こう答えた

 『私 一番狙うの もうやめる 首席の座は ありまにゆずることにするね』・・・」
有馬の表情が険しくなり ジロっと睨まれる
宮沢は ドキリとし 冷や汗が流れる

有馬は血を吐いた錯覚に陥り 立ち上がる
授業中の皆が驚く
教室を出て行く
(有馬)
血を吐いた
蹴りをまともに 胃にくらって
赤いものが 畳に広がってくのが恐ろしかった
母親は さも汚いという顔で 唇を歪めていた

なんとなく分かってきた

たぶん 今思い出しているのは 3歳の頃のこと
冬に父さんに引き取られるまでの ――半年間の記憶
それ以前
いつから暴力を受けていたかは 幼くてもう分からない

後ろから 服を引っ張られる
宮沢が心配して 有馬の顔を覗き込む
有馬の顔は 無表情になっていた
(宮沢)「どこ 行くの・・・」
(有馬)「帰る 3限目自習になったし」
(宮沢)「じゃ 私も帰る」
(有馬)「何言ってんの 5限まであるくせに」
(宮沢)「どうでもいい 有馬をとり戻すまで 勉強なんか」
(有馬)「今さら」
通りがかりの部屋に有馬を突き入れ 鍵をかける宮沢
(有馬)「――――― ・・・・・・・・・」
(宮沢)「『今さら』だって分かってる だから話がしたい 有馬の気持ちを聞きたいの」
(有馬)「困らせないでくれ 今はそんな話する余裕ないんだ」
(宮沢)「なんで余裕ないの 話してよ 知りたいの 本当の有馬のことが知りたいの」
(有馬)「どけよ」
(宮沢)「どかない ここで引いたら 私たちの関係はこわれてしまう
 それでもいいなら 私をつきとばして出ていけばいい」
宮沢が寄りかかっているドアを叩く

(有馬)
つきとばしてでも 出ていけば良かった
本当の僕をぶつけたら 君を ずたずたにしてしまう
心によどむ 醜い思いが
ただひとり
僕が心を許してしまった君 故に

幼いころの記憶
秋になって 母親の暴力は さらにひどくなった
完全に僕に興味をなくし あるのはただ 憎しみだけになった
何日も 戻って来ないことが多くなった

般若のような顔で殴りつづけた
しだいになにも感じなくなっていって
壊れた人形になっていった
秋が深まるほど さらに地獄で

顔を手で覆う
(宮沢)「有馬? どうしたの? 何をそんなに怯えてるの」
よろめいたことで 机からはさみが落ちる

昔のエピローグ
有馬の背中に 傷があることを指摘する宮沢
体のあちこちに 傷がある
(有馬)
不思議なことはいくつもあった
無意識に 考えようとしなかった
 「有馬先輩 今日もキレイ」「肌が 男の肌じゃないよ アレは!」
でも よく見ると ズタズタなんだ

(有馬)「ははっ はははははは ははははは はははははははは」
(宮沢)「有馬!? 有馬 どうしたの」
錯乱している
(有馬)「ははははははははは」
(浅葉)「開けろ そこにいるんだろ 有馬 おれだ 開けろ しっかりしろ」
有馬の頬を 軽く叩く
(有馬)「・・・・・・ ・・・・・・ ありがとう 助かった」

有馬はひとり 車を拾って帰る
宮沢は浅葉とともに帰る
(浅葉)「ちょっと前 有馬 テレビに出たろ
 ずっと行方不明だった 産みの母親が見て 会いに来たようだ
 しつこくつきまとわれて 思い出しちまったんだって
 昔 母親から虐待されてたこと
 両親にも 宮沢にも 黙って処理したかったけど
 だめだっ だめだって」
(宮沢)「有馬は 浅葉にはなんでも話すのね
 分かってる 私に 責任があるから」
(浅葉)「人間にはさ 陽光型と 月光型があるんだって おれも有馬も 月っぽいな
 おれは気持ち 分かってやることはできるけど あいつを変える力はない
 でも宮沢は 『このままじゃダメだ』って言って
 有馬をムリヤリ引っぱってく力を持ってると思うよ」
(宮沢)「・・・・・・ ありがとう」

(浅葉)
でも 有馬を闇から救い出すのは
かんたんじゃない
おれは安易に 宮沢に犠牲を払わせようとしているのかもしれない
それが分かっていたから 有馬は あんなに恐れていたのかもしれない

(宮沢)
これからは
私が有馬を支えるんだ

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