彼氏彼女の事情 ACT72

有馬の家の前で待っている
(宮沢)「一緒に学校行こ」
有馬は返事をしない
(宮沢)「浅葉から聞いたよ このまえ校門にいたの 産みのお母さんだったんだね
 それで 子供の頃のこと 色々思い出したって
 なにかできることある?
 もし もう会いたくないっていうなら 話つけにいくよ? 口うまいもん 私」
(有馬)「ねえ 頼みがあるんだ しばらく僕のこと 放っておいて欲しいんだ」
(宮沢)「・・・・・・ 何で?」
(有馬)「忘れてた子供の頃の記憶戻って 精神的にまいってるから
 落ちつくまで ひとりにして欲しいんだ」
(宮沢)「踏み込むなってこと? いやだよ
 有馬のこと 分かりはじめてきたのに 私しりたいもの」
(有馬)「なんにも 面白いことなんてないのに
 ずっとひとりでやってきたんだ 今さらふたりで考えようって言われても

 迷惑」

(宮沢)
掌が 汗でびっしょり濡れていた
あれは ある意味 彼の本音なんでしょう
ずっと 私に本心を明かさなかったのも分かるわ

騙す男
心がひどく歪んだ男
総てに恵まれながら 独りで生きている男

出会った頃
あんなに身近に感じ合えたのに

なぜ今
こんなに違う?

それでようやく分かった
私達の「恋愛」は
2年前のあの日に とうに終わっていたんだ――――――――

図書室にいる有馬に 近づく
(宮沢)「騙そうと思っても 私 有馬のこと知ってるよ
 このごろ ほとんど眠ってないでしょ」
(有馬)「虚勢張ってるけど 内面ボロボロなんだ
 それなのに 人前じゃ愛想ふりまいちゃって 気持ち悪いよ」
(宮沢)「私のこと遠ざけようとするのも こうやって踏み込まれるのが怖かったんでしょ
 いっときは心許して 自分を知られてしまった相手だから」
無表情に宮沢を見つめる
(宮沢)「邪魔だって言われても聞かないわ
 毎日つきまとって 有馬が隠してることにズカズカ踏み込んでやる
 文句いわれるすじあいないわ
 あなたは2年も私を騙してきたんだから」
(有馬)「知ったって いやになるだけさ」
(宮沢)「有馬が 遠いの
 こんなに傍にいるのに 遠く感じるの」
(有馬)「うん」
(宮沢)「以前は あんなに近かったよ」
(有馬)「一見似てただけで 本質はまるで違っていたんだよ
 まるで違うから 僕は宮沢を好きになったんだ
 一緒にいるうちに それがはっきりしてきたから
 宮沢が “外”に目を向けるようになるのに合わせて
 少しずつ “うまくいってる彼氏のフリ”をしていった
 気付かれてしまったのは まぁ
 僕も甘いね」
泣きながら
(宮沢)「・・・私のこと 好きなんでしょう?」
(有馬)「好きだよ」
(宮沢)「私の意志なんかいらないの?
 お人形みたいに騙されて
 恋愛ごっこしてられればよかったの」
(有馬)「ああ」
(宮沢)「お父さんや お母さんや 十波くんや りかちゃん達にも
 そうやって嘘を重ねていくの」

(宮沢)
私は有馬を信じすぎ
有馬は私を信じなかった

2年ぶりに聞く 有馬の「言葉」は
わたしにはあまりに 遠く

目の前にいる このひとを
好きだと言える自信がないわ

(有馬)
涙を流す彼女を
暗澹とした気分で眺めていた

こうなることは
分かっていたさ

やはり彼女が 一番手強い
一度嘘に気付かれたらもう 言い逃れは通用しない
分かっていたさ

わかっていたんだ
ああ僕は 君に嘘を吐いてたんじゃない
僕自身に吐いてたんだ
「君を大切にする優しい自分」でいたかった

でも 君の目に失望が広がってゆくのを見たら

ずっとずっとずっとずっと
抑えてきたものが

怒りが込み上げてきて
(有馬)「出てけよ もう充分だろう
 泣いて逃げて オレを責めてりゃいいだろう
 あんたはなにも悪かないんだからさぁ
 悪いことをする必要がないんだから
 正しくって逃げられるやつはいいよなぁ
 でも こっちは逃げられないんだよっ
 嘘だっていいだろう
 幸福な夢が見られれば
 現実なんて見たくもないんだよ
 なんでみんなオレを責めるんだ
 あんたのせいだ
 あんたを好きにならなきゃ
 こんな自分 知らずにすんだんだ
 苦しまずにすんだんだ
 おまえがオレの心を崩すんだ
 おまえのせいだ
 おまえのせいだ
 おまえのせいだ」

(有馬)
ちがう
こんなこと
言いたくない
違うだろう?
自分が先に好きになったんだろう
宮沢はおまえに応えてくれたのに・・・

自分自身に怒鳴る
(有馬)「うるさい」
宮沢は 有馬に身を寄せる
(有馬)「・・・なんだよ」
宮沢を離そうとする
(宮沢)「やだ 今 傍にいなくて いついるの?」

(有馬)
母が帰ってこなくなって何日だろう
僕のこと いらなくなったんだなって わかった
その日は 熱が出てぼんやりして
動くことはもうできなかった
雪が降ってた 覚えてる

そして それが母との最後の日になった
母を追いかけ 階段から滑り落ちる
知っていたからだ あの日母親は
僕が死んでいるか 確かめに来たんだと

父さん達は 本当によくしてくれて 大好きだけど
どうしても心を開けないんだ
それ以外の誰でも

どうして 人を信用できるようになる?
心の奥深く植えつけられた絶望が
いつまでも僕を縛って

勝手に好きになられて 無理矢理気持ち ぶつけられて
かわいそうだね 宮沢
こんな僕に好かれて・・・・・・


夜 机に座り勉強をしている
ふいにカッターを取り出し 見つめる
手を机に置き 思いっきり突き刺す
見る見るうちに 有馬の手から血が流れ出る


眠っている宮沢
(宮沢)
こんなに気持ちいいなら 有馬も一緒ならいいのにな
海辺で 潮を感じている
違う感覚にも気づき 目覚める
自分のお腹に

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