彼氏彼女の事情 ACT73

(宮沢)
・・・なんだろう あの左手
さっきからずっと

(宮沢)「血の匂いがする」
無理に 有馬の左手を引き出す
血が ボタボタと垂れる
包帯を巻いた左手は 真っ赤だった
それを見た宮沢は ボロボロに泣く
(宮沢)「こんなにばかだと思わなかった・・・・・・!」
有馬は平然とし
(有馬)「どうだっていいじゃん もう
 僕なんてダメなんだって 昨日わかったろ
 宮沢は立派な人なんだからさぁ
 もっといい人 選べるよ」
有馬のことを平手打ちし
(宮沢)「たかだか一回の失敗くらいで・・・
 しっかりしなよ ここが踏ん張りどころでしょ
 ここで逃げたらいけないの!!
 昨日のことがなんだっていうのよ
 私はきのう 一言もいやだとは言ってない
 勝手に絶望して 勝手に手を切るんだわ
 私はあのとき嬉しかった
 “私を好きだから 見せかけの自分が崩れてしまう”って言われて 嬉しかった」
ドアのガラスを叩くと ガラスが割れた
(宮沢)「同じ傷つくったら 私のこと信じる?」

(有馬)
そうやって君は
かるがると僕の心に踏み込んで
心をめくってしまうんだ

虚勢を 意地を 偽りを
怖くて それがたまらなく怖くて
でも 魅かれる

その時 疑念が生まれた
僕は本当に 虐待されたことで苦しんでいるのか?

宮沢にすべてをぶつけたのに
なぜ また 心をめくられるのが 怖い?

違う
愛されなかったことが 僕の苦しみの本当の理由じゃない
忘れてることが ある

「愛されなかった」ことさえ カモフラージュにして
自分自身をもだまして
幼い日に そこまでして消さなければならなかったもの
とても大事なもの・・・

“それ”を失くしてしまったから
僕は こんなに苦しんだんだ
“それ”をなくして 僕は人ではなくなってしまって
なにもかもが つくりものになって
つくりものの“それ”では 少しも心を満たせなかった

(宮沢)「誰も 有馬をいらないといったり 見捨てたりしない
 それは昔のことだよ・・・・・・
 ・・・・・・でも 違和感があるの
 愛されなかったことで苦しんできたのなら
 有馬はもっと 乾いた人間になった気がする
 けど それは違うよ
 私は 有馬の奥には
 もっとたくさんの感情があるような気がするの
 
 思うんだけど
 自分で気付いてない所でもうひとつ 殺してる感情があるんじゃないの?
 有馬はさ あなたはずっと

 人を、愛したかったんじゃないの」

熱い気持ち 過去の自分 自分を理解してくれている人たち
晴れ渡ったような この感情
ようやく自分に気付き 涙する有馬
(有馬)「うん・・・ そうだ ありがとう・・・」
宮沢を抱きしめ そのまま気を失う

(有馬)
僕が耐えられなかったのは
愛する気持ちを踏みにじられつづけたこと
痛くて死んでしまいそうだったから

深い心の闇の中に 隠してしまったんだね・・・・・・

嬉しい 心が ひろがっていく―――――――――

気付いたときには病院のベットの上だった
そのベットの足元には 宮沢が眠っている

何が解決したわけでもないけれど
子供の自分がかけた呪縛から解き放たれて

僕は、心を手に入れた。

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