彼氏彼女の事情 ACT84

有馬と父親のインタビューが載る新聞の記事を見て
(宮沢)
わたしでさえ見たことがない くつろいだ笑顔を 「父親」に向けていました
その記事を 有馬の父も見る

(有馬)
コンサートが始まり 怜司は本格的に忙しくなった
僕は丁稚よろしく 怜司について 雑用をするだけなんだけど

たのしかった

一緒にいるうちに分かってきたけど
怜司は口がわるく 美意識がつよく 気位がたかく 派手
やたら人目をひくが 必要以上に人を寄せ付けない質
自分の本心を決して他人に見せない

要するに 難儀な男
でも僕には つきあいやすかった

ピアノに向かうときの怜司は ほんとうに格好良いと思った
大人になったとき あんなふうになりたいと願うくらいに

・・・ああ そうか
なぜ こんなふうに惹かれるか
怜司からは 僕とごく近いトラウマの気配がする
だからこんなに居心地がいい
だからこんなに甘えたくなるんだ

(怜二のマネージャー)「レイジは 君のこと気に入ってるんですね 安心しました
 彼には 本当に必要なひとなんて ひとりもいないのではないかと
 思っていたから――――」

(有馬)
もし 怜司がほんものの叔父で 傍にいてくれたなら
僕はきっと こんなに淋しくはなかった

ホテルのフロントから電話
(父親・怜司)「はい? ・・・さぁ 心当たりないな 引きとってもらって」
(宮沢)「だれ?」
(父親・怜司)「ああ 兄貴」
無神経な発言をしたため 有馬は 父親を殴る
(有馬)「なんでそんなことするんだよっ 出てくる!」
(父親・怜司)「ちぇ――― いいじゃんよ 放っときゃいいのに――
(有馬)「どうしてそんな言い方するの あんた お父さんのこと好きなくせに」

ホテルを去ろうとしている父を 背後から呼ぶ
(父・総司)「良かった・・・ 会えないかと思った」
(有馬)「ごめん あの」
(有馬の父)「怜司のことが気に入った?」
(有馬)「・・・・・・ うん」
(父・総司)「よかった お父さんもね 身内のなかで 怜司が一番好きなんだよ
 だから気にしないで よく見ておいで 君の父親の姿を―――――」

ベットの上で寝しなに
(有馬)「怜司 あんたって結婚してんの」
(父親・怜司)「なにを急に・・・ オレがそういうタイプに見えるか?
 ありえないねぇ まともな人生なんて オレには不可能だから」
(有馬)「なぜ」
(父親・怜司)「オレもガキの頃はまともだったけど 母親が無理心中しようとしたとき
 オレだけ生き残ってしまったからな」
(有馬)「そんなの 子供がつきあう義務ないよ」
(父親・怜司)「もう いやなの。」

怜司の子供の頃
暗く 何もない海 手漕ぎボートのみが漂う
(怜司の母)「いっしょに いこう 怜」

(怜司)
若く美しい母
彼女のためなら なんでもしてあげたいと思っていたけど
愛情なんて 生きたいという本能の前では 紙クズになる

死にたくないよ
生きたい
生きたい

(父親・怜司)「母親は 暴れるオレをものすごい力で抑えつけてきて
オレは あんなに誇らしかった 母親の美しい顔を 蹴ったんだ」

(怜司)
何度も 何度も
ようやく離れて ひとり海中にのまれていく母親の
怒ったような 怨んだような 血だらけの顔が

網膜に灼きついた

(父親・怜司)「あれでオレ 壊れちまったんだ」
澄ました顔で言ってのける怜司を見て 有馬はたじろぐ

夢にうなされた子供の頃の怜司 それをやさしく抱く 兄
(怜司)
兄であり 医師であり 父親でもあった ――――総司
あんたを 喪ったことを どれほど悔やんだろう

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