彼氏彼女の事情 ACT87

(父・総司)「あの頃――― わたしは 体を悪くした父に代わり
 予想外の若さで病院を継いだばかり
 毎日忙しくて 腹ちがいの弟の存在なんて すぐに忘れてしまった」

本宅からの電話で呼び出され 父と会う
(総司)
いつのまに こんなに老けたのだろう
確かに 本宅へはずっと来てなかったけど・・・
父に促された書類を読む
そこには ひとつき前 入水自殺した さる女性と
助かったその息子 “怜司”の状態が 克明に記されていて

醜く変形した母親の顔と 息子の体中に残る 母親の爪跡から
そこで いかに凄まじい生と死の闘いがあったのか
――――――――――――――――――――
目に浮かぶようだった

(父・怜一郎)「頼む・・・ 怜司を守ってくれ・・・ この家は・・・」
(総司)「これはあなたが招いたことでしょう!?
 どうしてあなたは 家を掻きまわすんだ 僕にどうしろというんだよ!」

(総司)
父は その女性を愛したんだ
産まれた子を 愛したんだ
残酷なほど 子供達を見向きもしなかったくせに

なぜあのとき――――――
事の大きさに気付かなかった
あの姉が 父が本気で誰かを愛することなど 許すはずがないのに

間違いを重ねながら 誰もがもう加害者だ
父も 姉も 僕も
子供を道づれにした その女性も――――――

本宅の庭の木の上から 総司に石を投げる子
(総司)「きみ 怜司くんだろ?」

(総司)
息を飲むほど 父ゆずりの綺麗な顔をしていた

食事の世話をしている
(詠子)「はい お父様」
(父・怜一郎)「・・・怜司 怜司に会わせてくれ・・・」
(詠子)「お父様ったら そればっかり お母様の亡い今
 この家のことは 私がちゃんとやっていますよ」
部屋の外で 話のやり取りを総司が聞いている

(詠子)「何よ 話って」
(総司)「単刀直入にいう この家のことは 僕にまかせてほしい」
(詠子)「はっ 自分からこの家出たくせに」
(総司)「それが間違いだったと分かったよ これ以上あなたには まかせられない
 ・・・あなた自身のためにも」
(詠子)「お父様に頼まれたのね・・・
 やっぱりあの子に跡を継がせるつもりなんだ!
 あなたそれでいいの!? 売女の子の世話をさせられるのよ」
(総司)『落ちついてよ 誰もそんな先の話してない
 そうやって あなたがあの子を敵視するのが心配なんだ
 父と家と病院が世界のすべてってわけじゃないでしょう?
 なぜいつまでも そこから自立できないの」
(詠子)「あなたに なにが分かるっていうのよ
 最高の男を父にもって 愛されなかった娘の気持ちが分かるの!?
 男というだけで父からすべて相続できるあなたに
 いつも居場所がなかった私の気持ちが分かるの!?
 私を否定するものから どうして自立できるの!?
 だから奪うのよ 父も家も病院も!」


詠子に八つ当たりされる怜司 それを止める総司
その総司の腕を噛んだ怜司
(総司)「そっちは 手術する手だから・・・ 使えなくなると困るな」
何かを感じ 噛むのをやめる
その後 怜司が寝ているベットの傍で
(総司)「気が付いた?
 僕は総司 親みたいな歳だけど 君の兄だよ
 長い間 辛い思いしてたこと 知らなくてごめんね
 これからは僕ができる限りのことをしよう・・・・・・」

(総司)
そうやって
はじめて僕達は 互いの存在をまぢかに知った
揃いの名前を持ちながら
年齢も 環境も 性格も 対照的な
互いの兄弟の存在を

幼いながら 彼は誇りたかい男であり
一言も弱音を吐かず 闘っていた
この家に巣くい 今彼をの飲み込もうとする “闇”と
――――連れていかせはしない

この子は僕の大切な 弟なのだから

骨折したところが強くなるように 心も変わるんだろうか
恐怖と混乱が落ちつくと 彼は傷ついた心を
その高いプライドと 強靭な精神力で補修して
かなり独特な人格につくり直した

半年も過ぎたころ こう言った

(怜司)「総司―― もう家帰っていいぜ
 ホラーな夢もこのごろ見ねえし 見たってもう平気だって
 たまに会いに来てくれたら それでいい」

総司の妻には言いたい放題 詠子には悪態をつき
親類の子に扱き下ろされたことに 腕力で跳ね除ける

(総司)
そのときなんとなく 怜司の変化の意味が分かったよ
彼は 自分の置かれた状況で
“遊ぼう”って思った

まともな精神じゃやっていけないから

一族の中の “闇”で どれだけ遊べるかの 危険で楽しい 「ゲーム」
―――――そういう怜司が好きだったよ
綺麗で強くて繊細な わたしとはなにもかも違う弟

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