彼氏彼女の事情 ACT91

・・・兄さん オレは ひとりではまともになれない・・・
ひとを傷つけたし 自分のことも傷つけた
オレは・・・
兄さんのところへ戻りたい・・・・・・

(怜司)
胸を塞いでいた思いから開放されて
ひとは、生きながら何度でも生き直せると信じた

オレは再び精神的に安定し
長い旅はおわったんだ と思っていた

やがて不幸の連鎖に巻き込まれ

帰る場所のない長い長い旅に再び出ることになるのを知らずに


(怜司)「・・・手紙? 珍しいな 誰から・・・
 ・・・なんだよコレ 産まれたばっかの赤ん坊の写真じゃん
 誰がこんないやがらせ・・・ あ」

電話が鳴る
(涼子)「写真届いた? びっくりしたでしょ 自分そっくりで キレイな男の子だよ
 あたしだって産むかどうか 悩んだんだよ
 でも中絶するなんて かわいそうじゃん
 でもさ――――― 怜司ん家って お金あるんでしょ?
 結婚してなんていわないから
 養育費ちょうだい?
 そうそう 名前つけなきゃなんないの 怜司決めてくれない?」
(怜司)「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・名前?
 名前なら・・・ ひとつしか考えられない・・・
 『総一郎』・・・」


(怜司)
すべてを許してくれた兄も この過ちだけは許さない
まちがいで 不幸な子供を またひとり生みだしたことは・・・

オレにはもう 夜明けなんて来ない

オレは卑怯者になった
言われるまま金を払う
兄には言わなかった
すべて打ち明けて子供を引き取るのが
最善だということは分かっていたけど

その瞬間から 兄のオレへの感情が変化してしまうことが怖かったのだ
だいたいなぜ?
一度だけのことで 好きでもない女と 欲しくもない子供のせいで
人生を狂わされなきゃならないんだ?

しだいに涼子の要求する金額が多くなり
オレは疲れ果てていった
そういう年月がどのくらい過ぎたろう
ある日 気付いた

子供がいつも泣いている

考えたもので 金づるの子供をとられないよう
涼子は一切居場所を分からせなかった

(怜司)「なぁ・・・ 一度子供に会わせてくれよ
 お前が思ってるほど金なんかだせない
 こんなこといつまでも続けられないんだよ
 そのうち遺産がころがりこむとか思ってるのかもしれないけど
 オレは愛人の子だから
 遺産はもらうつもりない
 この暮らしだって 親父がいるからできてる
 いなくなったら もうムリだ・・・・・・・・・」
(涼子)「・・・・・・・・・ なにソレ がっかり」

(怜司)
興味を失ったように電話が切れて
それ以来つながらなくなった

とうとう興信所をつかって
居場所をつきとめたとき
オレは二十歳になっていた

冬の雪の晩だった

アパートの階段の下で 雪をかぶって倒れている子供
顔とその周辺の雪には 血がついている
その子供を抱き上げ 怜司の目からはとどめもなく涙があふれている
(怜司)
よかった・・・ 生きている・・・・・・
ホントに オレにそっくりだ
ずっとおもえのこといらないなんて思ってて ごめんな

兄さんをあげよう
愛情も未来も みんなあげる
オレはもう・・・ いらないから・・・・・・

だからおもええは 幸せになって・・・

(怜司)「・・・もしもし 兄さん 今からいうところにすぐに来て 子供がいるんだ
 オレの子供 今3歳なんだ・・・」


これまでの長い長い話を 総一郎が聞いている
(父・総司)「あわてて とんでいったよ
 3歳になる甥がいたなんて まったく知らなかったんだからね」
(総一郎)「僕・・・ 少しだけど お父さんが来たときのこと覚えてる」

(総一郎)
ずっと不思議だった
階段から落ちたはずなのに お父さんが来たときは
部屋の中にいた気がしてたんだ
寒かった感じがないから
あれは部屋の中から 戸の外を見てたんだ・・・・・・

・・・あのときそこに・・・ 怜司がいた・・・・・・・・・・・・

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